1995年増補版「木造住宅の耐震精密診断」(詳細)
(1)概要
「1.わが家の耐震診断」の各評点の求め方をより専門的にしたものです。表の中から診断対象の住宅に一番近い状態や値を選択して評点を求める「わが家の耐震診断」とは異なり、偏心率や実際の壁の長さ、材質などを元に、より工学的な方法で評点を求めることによって、精度の高い総合評点が得られるようになっています。
また、耐震診断による地震保険料率の割引の基準にもなっています。
(2)評価方法
A~F(A:地盤・基礎 B:建物の形 C:壁の配置 D:筋かい E:壁の割合 F:老朽度)の6項目について適切な評点を選び、各評点を全てかけ合せて総合評点を求めます。
(A:地盤・基礎)
|
|
(B×C:偏心)
「B:建物の形」と「C:壁の配置」は、建物全体としてのまとまりのよさをみる項目です。
この精密診断においては、定量的な判定が可能な偏心の程度によってB×Cの評点を求めることにしています。
偏心率の算出方法についてはこちらのページを参照下さい。
![]() |
Re | |||||
偏心率ReからB×Cを求める図 |
(D×E:水平抵抗力)
D×E(「D:筋かい」「E:壁の割合」)は、地震時の水平力に対する抵抗力の大きさを表わす評点です。この木造住宅の耐震精密診断法においては、この水平抵抗力が、耐力壁だけでなく、設計上耐力を評価されていない壁によっても発揮されるということを考慮して、D×Eの値を各方向別に次式によって求めることにしています。
ここで、
p:{}内で表わされる抵抗力の割合を評点に変換する係数で1/1.5とする。
α: 個々の耐力壁(筋かい入りの壁、構造用合板等を貼った壁、土塗壁等)の倍率で、倍率表-1による。
lB:上記個々の耐力壁の実長(m)
β:個々の無開口壁に貼られた面材等(モルタル塗、サイディング、ラスボード等)による等価的な倍率で、倍率表-2による。 壁の両面の面材の値の和をとる。ただし、上記のαのところで数えた構造用合板等については、ここでは数えない。
lt:上記個々の無開口壁の実長(m)
Lr:所要有効壁長で表-3による
q:垂壁、腰壁等によるラーメン的な効果を表わす係数で、0.25とする。
ただし、耐力壁の種類や位置がわからない場合には、LT=∑lTとして、D×Eの値を下図によって求めることもやむを得ないものとします。
![]() |
||
LT/Lrから D×Eを求める図 |
◆倍率表-1 耐力壁の有効倍率α
|
◆倍率表-2 面材等による等価的な倍率β
|
◆表-3所要有効壁長Lr(m)
|
(F:老朽度)
|
老朽化している:
建築後年月を経過し、屋根の棟の線や軒先の線が波うっていたり、あるいは柱に傾きがあり、建具のたてつけが悪くなっているなどの場合です。
腐ったり、シロアリに喰われている:
土台をドライバーで突いてみて、ガサガサになっているかどうかで調べます。建物の北側と風呂場まわりは念入りに調べます。シロアリは、梅雨期に羽ありが集団で飛び立ったかどうかも判断の材料になります。
ここでいう老朽化とは、建物の構造耐力上主要な部分が経時的劣化をきたし、健全時の状態を維持せず、構造耐力上欠陥とみなしうる現象をいいます。
具体的には、基礎の変形ならびに構造材の腐朽・蟻害をとりあげています。
両者はともに耐力要素への力の流れを妨げると同時に、材を破壊して、建物が傾斜・沈下などを起こす原因となります。
基礎については、亀裂の有無について調査します。コンクリート布基礎は、通常鉄筋が挿入されていないので、不同沈下によって生じた、肉眼で判別できる亀裂が一カ所でもあれば、地震時に建物の一体性を保ち得ません。
亀裂は、目視により判断して差し支えありませんが、化粧モルタルの収縮によるヘヤークラックは含みません。基礎の布石積・玉石の亀裂、石のずれ、玉石の沈下を調べて判断します。
構造材の腐朽・蟻害は、主に建物外周ならびに浴室回りの土台について調査します。
腐朽部分は、木材の色が茶褐色あるいは白色に変化しているので目視でわかります。断面欠損量を知りたいときは、ドライバーを材表面から押し込み、侵入深さを測ります。
シロアリによる披害は、表面層を残して内部が披害をうけていることが多いので、ハンマーにより打診を行い、健全部と被害部との打撃音ならびに打撃感触で判定します。
土台を調査して、土台下端(コンクリート・石等との接触面)のみに披害があるのは軽微、土台側面まであれば中程度、土台上端面に披害があるのは、上部よりの雨水の浸透により、柱脚、筋かい尻も侵されている危険があるので被害大とします。
しかし、土台下端のみでも、それが北側土台の半分以上被害があれば大とします。
以上は、直接土台を露出させて調査する場合ですが、モルタル塗壁等で壁を破壊して調査することができないような場合には、次により判定します。地盤の不同沈下ならびに土台の腐朽・蟻害などは、ともに建物の不同沈下、壁・床の傾斜を生じるので、両者を同時に判定することにします。下記の項目が一つでもあれば、評点は0.8とします。
Ⅰ)ドアあるいは窓を閉めたとき、枠と建具との間に著しい縦長の三角形の隙間を生じている。
Ⅱ)窓の敷居が著しく水平を欠いている。
Ⅲ)建物の壁面が傾斜しているのが、肉眼でもわかる。
Ⅳ)床面の傾斜が座っていて感じられる。
Ⅴ)シロアリの成虫(4枚羽根のついたしろあり)が浴室から飛び出した。
Ⅵ)屋根の棟あるいは軒先が波打っている。
Ⅶ)モルタル塗壁に長い斜めの亀裂が入っている。
診断項目のA~Fの各評定を全てかけ合わせて総合評点を求めます。
総合評点=A×B×C×D×E×F
(診断結果の判定)
総合評点を、耐震判定表にあてはめて、判定します。 耐震判定表
|
総合評点が1.0未満の場合は、補強改修等の対策を講じる必要があります。
また、総合評点が1.0以上でも部分的な欠陥がある場合には、その程度に応じた対策を講じる必要があります。
(3)特徴
●長所
・精度の高い診断結果が得られる
・診断のための補助制度が利用可能
・地震保険料率の割引の基準とされている
●短所
・専門的な知識や複雑な計算を要するため、一般向けとしては難しすぎる
建設省住宅局(現国土交通省住宅局)監修、財団法人 日本建築防災協会・社団法人 日本建築士連合会編集「木造住宅の耐震精密診断と補強方法」より作成